病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

絶対に欠品してはいけない医薬品,その理由.②セファゾリンナトリウム注射用

病院で治療する医薬品の中でも,欠品や出荷調整などで,薬剤の供給が滞ることが許されない医薬品があります.

まさか,と思うような供給停止,出荷調整が続きます.

 

今回はセファゾリンです.

 

https://www.nichiiko.co.jp/medicine/file/54100/information/o-cefazoli_i-20190228cI1.pdf  

 

最近医薬品の出荷調整,本当に多いです.今年度だけでも,

マキシピーム,スルバシリン,サクシゾン,アネメトロ,エピペン,ゼルフィルム,トレアキシン25mg,ウログラフィン…

他にもあったでしょうか.

  

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不足

 

 

 

セファゾリン(CEZ)の特徴

サンフォード治療ガイドでは,セファゾリン  (2018/8/7 更新)として下記の記載があります

 

・第1世代のセファロスポリン系注射剤で,感受性のあるMSSAなどのグラム陽性球菌(MRSAまたはEntercoccusは除く),E. coli,P. mirabilisおよびKlebsiella属による感染症の治療に広く使用されている.

・Type A βラクタマーゼを過剰産生するMSSAの菌血症に対し,Cefazolin治療が失敗することはほとんどない

・主要な使用方法は外科的予防投与である.

 

・半減期2時間

 

 

Up to dateでは,オフラベル使用も含め,

 

カテーテル感染,胆嚢炎軽度から中等度,心内膜炎,風空内感染軽度から中程度(メトロニダゾールと併用),骨髄炎,腹膜炎(腹膜透析時),人工関節感染,皮膚軟部組織感染,尿路感染などに広く用いられている.

 

大部分の大腸菌,Proteus mirabilis,Klebsiella pneumoniaeに有用.

 

 

中枢神経系の感染症でなければ,メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)の治療の第一選択薬として位置づけられています.

 

そして,周術期の予防投与としても広く使われており,術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン - 日本化学療法学会 でも,広く予防投与の第一選択として用いられています.

 

http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jyutsugo_shiyou_jissen.pdf

 

WHOでも,必須の医薬品,

Essential medicines and health products として挙げられています.

WHO | WHO Model Lists of Essential Medicines

無くてはならない医薬品,という事になります.

そして下記の通り,日本国内では欧米に比べて使えない医薬品があるため,必須の医薬品の一つとされています.

 

代替薬は・・・

 

あればこんなことを書かないんですけどね…

 

上記のように,MSSAの菌血症においては,国内では第一選択薬のため,その治療を何で行うかが問題となります.

これしかないような気がします.

 

Up to dateでは,

・MSSA菌血症の治療は一般的に,ナフシリン,オキサシリン,フルクロキサシリンで治療,ペニシリン感受性があればペニシリン,ただし大部分はペニシリン耐性

・セファゾリンは前述の薬剤に過敏症を有する患者に代替が可能

・バンコマイシンはβラクタム薬が使えない場合に用い,MSSAの一次選択として用いるべきではない

 

 

残念ながら,日本では,MSSA用のペニシリンが使えないため,セファゾリンを代用しています.ですので,このセファゾリンが使えないとなると… ほかにありません.

 

セフェム系薬剤の世代

 

セファゾリンは第一世代セフェム薬です.

抗菌薬の中でも,セフェム系抗菌薬が発売された時期などから,世代が分かれています.世代が後のものの方が,一般的に微生物のスペクトル(その抗菌薬が抑えることのできる微生物の種類)が広くなる傾向ですが,

微生物に対する抗菌力の強さというのは少し別の話になります.

 

セファゾリンは,メチシリン感受性のブドウ球菌に対して,最も適切であり効果がある抗菌薬とされています.

 

第2世代以降の他のセフェムを代用?

セフェム系抗菌薬は第4世代まであります.それを使えばよいのでは…という事を考えますが,

またまた Up to dateより,

 

・第2世代のセファロスポリンは,第1世代と比べてブドウ球菌に対してやや活性が低い

・第2世代のセファロスポリンは,対照的にある種のグラム陰性桿菌に対して活性を有する

 

・第3世代のセファロスポリンは,第1世代に比べてグラム陽性菌に対して活性がほとんどない(MSSAには弱い)

・第3世代のセファロスポリンは,現在のところ,手術での予防には推奨されていない

 

 

ちなみに第4世代セファロスポリンもありますが,セフェピム,セフォゾプランの両薬剤は現在,セフェピム先発品の出荷停止により,後発品のみのため供給は不十分,そしてそのあおりで,セフォゾプランも使えない状況です.当施設では原則使えません...

 

 

おちついて情報を整理しよう.どうするのか?

 

日医工のお話ですと,シェアは6-7割に及ぶとの事です.それが供給停止って… 今日医工以外の薬剤を使っていても,これは影響するのは必須かと思います.

 

落ち着いて整理してみましょう.

 

第一世代セフェムセファゾリンは,主に手術時の予防抗菌薬として当施設でも汎用されています.MSSAの治療にも用いられています.

それが供給不能となった時点で,手術時の予防を他の薬剤で担わなくてはいけなくなる,そしてMSSAの血流感染も同様です.

 

SSIガイドラインでも,セファゾリンはそのスペクトルの広すぎない,かつその強さ,そして値段の安さも含め,清潔な手術部位の予防などにおいても第一選択とされ,なくてはならない薬剤です.

これだけでもこの薬剤の必要性重要性がご理解いただけると思います.

 

今回はこの薬剤が供給不安定となってしまいました.

抗菌薬は様々な種類があるので,見た目的にも代替はありそうと感じてしまいます.

 

上述のように,米国ではブドウ球菌用のペニシリンというのが発売されています.

国内では同じものがないために(これは必要性があり,様々なところで話題には上がっていますが,この薬剤の承認が得られても,薬剤の金額としてはそれほど高くないと予測されるため,日本国内では現在発売されておらず使えない状況です)

国内では使えず,セファゾリンを用いています.

 

手術時の予防抗菌薬投与は,可能であれば,なるべくスペクトルは狭く,

手術時に感染を起こすと難渋する微生物のみの増殖を抑えれば,感染の予防ができます.

手術によって,どのような菌が手術後に感染症を起こすか,ガイドライン等でも過去の調査等からターゲットとなる微生物がある程度推測できます.

 

その中でブドウ球菌など,手術時などに感染症を引き起こしる場合にセファゾリンは最も有用な薬剤であるといえます.

 

すなわちこれが使えなくなると手術の予防抗菌薬は代替をしない限りは,手術の件数等にも影響が出てしまうと言う意味で,非常に大きな影響となります.

 

そうはいっても,セファゾリンを大切に使う,病院として,地域として使い過ぎないような方法を考えることが最も大切かと思います.MSSAの感染症と手術時の予防で考えてみることにしました.

 

MSSA感染症

こちらは,上記の通り,ペニシリンに感受性がなければアンピシリンなども使えません.

代替としてJAID/JSC感染症治療ガイドにもありますが,使用できるセファゾリンを極力この感染症に使用できるように配慮することとしました.

アンピシリン/スルバクタムは可能なのか(残念ながら当施設では供給停止中),なければ効果が劣ることを分かっていながらバンコマイシンを投与することになってしまいます.

ASTとも相談して,ここになるべくセファゾリンを集めたい対応となりました.

  

手術の予防投与の観点から

今回の大きな注目点はここです.ガイドラインでもセファゾリンの記載は多数あり,当施設でも月当たり2000本は使用されているセファゾリンを,どのように代替するのかは,まだ本格的に決めきれていません.

 

できる事から始めてみます.

 

まず,心臓外科を除くほとんどの手術は,予防抗菌薬は単回もしくは48時間までとされています.もう一度多々ある手術時の,予防投与の抗菌薬の投与期間を,見直す作業を開始します.あまり悠長なことは行っていられないので,この際よほどのことがなければ(あったとしても)投与日数の制限は必要になってきます.

 

ただ,これは指定の適切な予防抗菌薬(セファゾリン)を用いた場合,というのが前提なのですが.

 

代替薬として第2世代のセファロスポリン(セフォチアム)と,系統は変わりますが,クリンダマイシンを手術の術式などで,医師に選択してもらえるように医師と打ち合わせを行います.

 

代用品が決まればすむ問題なのか

病院では,処方は電子カルテシステムでオーダーされますが,手術時などはセット処方,パスなどが決まっているため,その変更にも時間を要します.

 

そして何より,どの程度をMSSA菌血症も含めた,セファゾリンとして使える数として確保しておくのか,そして代替品は十分に供給できるのか,など問題はまだまだあります.

 

使用量が多い医薬品は,影響がとても大きいです.

 

今回の供給の問題はなぜ起こったのか?

今回の問題は,バルクを2つ準備していたのにもかかわらず,それがうまくリスク回避をできていなかった点が指摘されています.

原薬となる製品に必要な材料の供給が不安定となったこと,また製品となった後の不純物などの問題もあったようです.

しかしながら,こういった問題は,突然起こったわけではないでしょう.

少なくともその予兆はあったでしょうし,初期の段階で対応せず,出荷ができなくなるタイミングまで,対策をとらなかったのではないか,とも感じてしまいます.

通常はある程度の在庫を持っているでしょうし,その在庫がなくなるまでのうちに対応ができない,というのは,医薬品製造業者としての認識が甘かったと言わざるを得ないでしょう.

 

上記のように,抗菌薬は単価が抗がん剤などと比べて低く,売り上げという点では小さくなるため,もしかしたらそのような認識が少なかったのかもしれません.

 

しかし,代替品がない薬品,そして国内のシェアがある程度ある医薬品は,その医薬品が供給停止となった影響を常に考慮すべきなのではないかと,いまさらながら,私は考えています.施設内の薬剤選択に,今後にも影響しそうです.

 

セファゾリンはグラム陽性球菌,メチシリン感受性のブドウ球菌感染症において,国内における第一選択として推奨されています.

これらの薬剤の供給に問題であれば,適切な予防投与が行われず,手術位感染が予防できなくなるという事に陥る可能性もあります

 

手術によって治癒ができる疾患をお持ちの患者さん,その方たちに,手術の後の感染症といった問題も引き起こしてしまう可能性もあります.

 

国内の手術部位感染は,欧米に比べて低いことも報告されています.

日本の外科医師の素晴らしさを物語っていると思います.

そして手術部位感染を予防できる抗菌薬,それはとても大切です.ブドウ球菌感染症に最も優れた薬にもなっています.

 

この薬剤は,古くからありますが,多くの方をこれからも救ってくれる,貴重な医薬品です.何としても欠品を避けたい医薬品の一つであることは確かです.

今後の状況を見守っていきたいと思います.

 

2019/03/12追記

これは個々の施設で対応できる限界を超えているのではないのか・・・

今回の出荷調整となったメーカーは,国内の6-7割のシェアを持つとされています.

そのため,別メーカーは新規の受け入れを行わず,既存の病院には欠品とならないような対応を行っています.

これは,当たり前のことかもしれません.

しかしながら,欠品となってしまった施設は,日常業務に影響が確実に出るほどの対応を余儀なくされています.

そして,これはまだまだしばらく続くことになってしまうでしょう.

 

いくつかの施設に確認してみましたが,

「当施設は別メーカーを使用していたので問題ない」という意見や,

「なくなって困っている.代替品も規制がかかっている」

という大きく2つに分かれてしまっています.

おそらく本ブログを見に来てくれているかたは,後者の施設の方が多いでしょう.

 

単純に考えて,6-7割のシャアを持っているところの医薬品が供給停止,となっているということは,日本の6-7割の施設が同様の状況に陥っているという事でしょう.

 

このまま供給停止が解決されなければ,今後さらに国内の医療への影響が出てくるものと考えています.

 

決して簡単な問題ではないとは思うのですが

東日本震災の際に,レボチロキシンは工場の被災から,早急な輸入の対応がなされました.

ニュース|サンド株式会社

 

この時に仕事をされていた方は,思い出されたかもしれません.

 

ここまでの状況とはなっていないかもしれないのですが,

今後の事を考えると,このままの状況,

セファゾリンを使うべきところで使えない,

という状況は,国内の治療に深刻な影を落としています.

 

国としての対応,AMRセンターでの対応なども期待してしまいます.

これ以上大きな問題にならないような対応を,ぜひお願いしたいと思います.