病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

抗がん剤治療中のインフルエンザワクチンの接種について

この時期によくある問い合わせ.
これから抗がん剤を始める,または投与中の場合.

以前より,癌患者さんと話していると,インフルエンザワクチンを接種するかどうかで,気にされているのはよく聞く.


大きく分けて,
①ワクチンをする必要性があるのか
抗がん剤使っているけど,インフルエンザの免疫つくの?
という質問が多かった.
当然主治医と相談,ということになるのだが,主治医より聞かれることもある.

  

①ワクチンをする必要性があるのか

 

患者さんの中には,問診票の,
・現在、何かの病気で医師にかかっていますか。
・最近1カ月以内に病気にかかりましたか。
・今までに特別な病気(心臓血管系・腎臓・肝臓・血液疾患、免疫不全症、その他の病気)にかかり医師の診察を受けていますか。

の部分に“いいえ”をつけられないのは,接種できない対象者と思われている方もいた.問診票は通常診察室で渡すことになると思うのだが,その時に記載したものをスタッフに渡して,そこで説明を聞けば大丈夫かと思う.それでも,この問診票を書くときに断念してしまっていたというのは,本人に聞くまで分からなかった.

インフルエンザワクチンの必要性などでは
公的なところから,その必要性が推奨されている.
国立がん研究センター がん情報サービスをよく紹介している.以下そちらを引用.

Q2.がんの治療中にインフルエンザ予防接種は勧められますか?
A2.勧められます.がん種やがん治療により、がんの治療中の方の多くは、がんではない方と比べると、免疫機能が低下する傾向があります。免疫とは、感染症から自分の体を守る仕組みで、体内に入ってきた微生物を攻撃したり、一度かかった感染症にかかりにくくしたりする働きがあります。免疫機能が低下していると、インフルエンザにかかった場合に、通常より重症化する危険性があります。インフルエンザワクチンを接種してもインフルエンザにかかってしまうことはあるのですが、重症化を予防する効果があります。このように免疫が弱ってしまう中であってもインフルエンザへの抵抗力を高めるために、がんではない方以上に、がんの治療中の方にはインフルエンザ予防接種が勧められています。

と,とても分かりやすく書かれている.ICでがんという言葉を使うことに抵抗のない方にはこちらを紹介して,よく説明を行っていた.

https://ganjoho.jp/public/support/infection/infulenza.html

 

インテリジェンスの高い方で,CDCなどはどうだ,と聞かれたこともある.ご自分でも調べられそうな雰囲気でしたが,当然CDCでも
People at High Risk of Developing Serious Flu–Related Complications
深刻なインフルエンザ関連合併症を発症するリスクが高い人 として
Weakened immune system due to disease or medication (such as people with HIV or AIDS, or cancer, or those on chronic steroids)
基礎疾患や薬剤(HIVやAIDS、がん、ステロイド投与など)による免疫システムの低下している人

が推奨されている.
https://www.cdc.gov/flu/about/disease/high_risk.htm

日本も米国も,インフルエンザワクチンの接種にあたっては,がん患者さんにとっては積極的に行った方がよいというのは変わりない.

 

抗がん剤使っているけど,インフルエンザの免疫つくの?


これは患者さんもそうだが,看護師,薬剤師も含む医療スタッフからの問い合わせとしてもよくある.

公的な文章を探しても,意外とタイミングについてはよく分からない.
先ほどと同様,国立がん研究センター がん情報サービスから引用

Q4.インフルエンザ予防接種はどのタイミングですればよいですか?
A4.ワクチンにより免疫ができるまでには、接種してから約2週間かかります。インフルエンザの流行は通常12月下旬から始まり1月から2月にピークを迎えますので、12月中旬までには接種しておくことが望ましいとされています。ただし、免疫機能が低下している状態ではワクチンを接種しても免疫が十分にできない可能性があります。そのため、Q3のように免疫機能が低下する治療を行う場合には、治療開始2週間前には接種していることが望ましいでしょう。すでに治療中、治療後の方は免疫機能の状態をみて接種のタイミングを検討する必要がありますので、がん治療の担当医とよく相談されることをお勧めします。

 

とある.本邦でも10月よりインフルエンザワクチンの公費助成が始まるが,私たちの施設も含め,10月後半から11月中の接種になってしまうのが実情だろう.
そうすると,これから抗がん剤を投与予定の方に,とりあえずインフルエンザワクチンが2週間後に確保できるので,2週間後にインフルエンザワクチンを投与して,それからしばらく(2週間)してから抗がん剤を開始,ということになってしまうのは,現実的ではないと思う.
既に抗がん剤の投与を開始している人もいるわけで,ではいつごろ?となる.

 

乳がん診療ガイドライン
化学療法施行にあたりインフルエンザワクチン接種は勧められるか (薬物療法・その他・ID10490)でも細かく記載されている.ぜひ確認しておきたい.

その中では,
化学療法開始より少なくとも2週間前の接種が望ましいというレビューがあるため,具体的な接種時期を推奨するエビデンスはないが,化学療法開始前なら2週間前までに,また治療中であれば骨髄機能の最下点(nadir)の時期を避けて接種することが望ましい。
となっている.これが現実的だと思う.
https://jbcs.gr.jp/guidline/guideline/g1/g10490/


Up to dateでは,予防接種のタイミングとして
化学療法中の不活性化された予防接種
・有効でない可能性があるため、化学療法やその他の免疫抑制療法を受けているがん患者では、不活性ワクチンを避けるべき
・化学療法中に不活性ワクチンが投与された場合,抗体が確認されていない限り,それらは有効用量とみなすべきではない
・そのような患者では、免疫力の回復後にワクチンを再投与すべき
とされている一方で,

インフルエンザワクチンの項では
・急性白血病のための導入化学療法または強化化学療法を受けている患者では,不活性化ワクチンは一般に避けられる
・季節性インフルエンザ株からの防御のため,不活化インフルエンザワクチンを推奨
・家族や病院スタッフの予防接種も強く推奨
・現在の勧告は,同シーズンのインフルエンザワクチンの2回目投与を支持していない

となっており,接種すべきであるが,タイミングについては,うーむ,という感じ.


国内の報告では,
詳細は確認できないが,
当院の肺がん化学療法施行患者におけるインフルエンザワクチンの接種状況
松江市立病院医学雑誌21巻1号 Page16-19(2017.03)によると

・化学療法中におけるワクチン接種の適切なタイミングは不明,患者の希望で接種
・肺がん化学療法施行中の調査
・インフルエンザ罹患者がいなかったため有効性は判定できないが,抗がん剤投与2週間以内の症例も
・効性が考慮されたワクチン接種方法に関するガイドラインの作成が望まれる

 

血液腫瘍患者におけるインフルエンザワクチン接種とその効果
化学療法の領域 2011年9月号(Vol.27 No.9)p150(2114)~p155(2119)

ワクチン接種の効果を増強するための投与方法の工夫 タイミング として
・化学療法の実施時期を勘案したワクチン接種のタイミングがきわめて重要
・治療終了群と化学療法中の群とを比較した研究の大部分で,治療終了群でより優れた抗体反応がみられている
スタディデザインのばらつきが大きいため,ワクチン接種時期に関する推奨内容も異なっている
・化学療法の開始2週間前,化学療法終了1カ月後,白血球数が1,000/μL以上に回復後,化学療法終了後2カ月後,および単にインフルエンザシーズン前接種の推奨など
・現段階では,一般に積極的な化学療法を行っている患者に対しては可能な限り,化学療法施行時と離れたタイミングでのワクチン接種が推奨される

となっている.


化学療法の当日は避けたほうがよさそうだが,だからといってnadirも避ける.
化学療法が予定されていて,インフルエンザワクチン接種2週後でもOKならそのタイミング,あとは主治医の判断,ということになりそう.